東京高等裁判所 昭和34年(う)728号 判決
被告人 岩崎浅吉 外一名
〔抄 録〕
検察官の控訴趣意第一点について。
所論は原判決が起訴状記載の強姦致死の公訴事実に対し強姦致傷の事実のみを認め、神戸やゑ子を死亡するに致らしめたとの強姦致死の事実を認定しなかつたのは事実誤認の違法があると主張するものである。
よつて本件記録並びに当審における事実の取調の結果に徴するに、原判決挙示の各証拠並びに当審における証人井関尚栄、永井可利の各尋問調書、当審検証調書を総合すれば、被告人両名は判示甘諸畑内でうつ伏せに転倒して失神中の神戸やゑ子を発見するや、同女の抗拒不能に乗じこれを姦淫しようと共謀し判示のように同女を抱えて仰向けに引き直し交々その上にのりかかつてこれを姦淫したこと、神戸やゑ子は判示甘藷畑内において死亡したものであるがその死因は窒息死と認められること、本件犯行現場は下仁田忠霊塔西方二六米の甘藷畑内でその畑は南北約二〇米東西約一一米の矩形であり、当時南北に並んで高さ二五糎の畝があり畝と畝との間は約七〇糎で、畝の頂上に甘藷が植付けられ甘藷の葉は繁茂して畑面を蔽つていたが、神戸やゑ子の死体は右甘藷畑の西から三つ目の畝の頂上に背中を乗せ頭部を西にして畝と直角の状態で仰向けに倒れており頭部は低く頭頂部を高くしてあるため頭部を無理に前方に曲げた様な形となり極端な弓なりの形になつていたこと、右甘藷畑の畝の高さは死体現場附近では二〇糎であり、その他の部分では二五糎あるのに比し五糎低くなつており被害者の死体には相当の力で上部より押したものと認められること、被告人両名は失神状態にある被害者を二回ずつ相当長時間に亘り上から乗りかかり肩を抱く等の暴行を加えたものであつて、被告人小金沢が関係するときは被害者はものはいわなかつたが「ふうふう」という呼吸をしており被告人岩崎が被害者の頭の方に廻り右手でその胸の附近を触つたとき心臓がドキドキしていたことから見て本件姦淫行為は神戸やゑ子の生前に行われたものであること、本件の死因につき鑑定人井関尚栄(原審及当審証人としての供述を含む)は、本屍の死因は窒息であり当時の状況により鼻口部周囲、頸部等を圧迫されることにより著明な外傷がなくとも死に致ることがある。本件被害者の死因はシヨツク死ではなく、甘藷畑の甘藷の茎に足をとられて倒れただけで窒息死すると云うことは考えられない。その為一時失神状態にはなりうるが失神即ち全身衰弱の状態で倒れた者を放置しておいてもなおるのが常である。被害者の舌は鑑定時に上下歯列の間に介在し、その舌と上口唇との間に甘藷の葉が介在していたことから、俯伏に倒れた時甘藷の葉の上になつたことは想像できたがその甘藷の葉だけで窒息死することは極めて少く、畝に胸を強打して全身衰弱の状態にあつた者を二人の男が連続姦淫した場合に胸部以外に頸部や鼻口部が圧迫されれば窒息死することがあり、本件記録に図示されているように畝に首が曲つた状態で胸部を圧迫された場合は窒息の可能性が大となると述べておること、叙上のように本件強姦の行為は被害者の生前に行われたもので、当時被害者は甘藷畑に倒れ失神状態にあつたとはいえそのままの状態で死に致る状況にあつたものではなく、また被告人等の行為後に被害者に対し窒息死の原因となるべき事由が加えられたことは本件記録上何ら認められないことから見ると、被害者の本件死亡は被告人等が前記のような土地の状況の下において失神状態にあつた被害者の上に乗りかかり相当時間押えつけ肩を抱く等の暴行を加えて同女を姦淫する間同女の頸部鼻口部等にかなり強度の圧迫を加え因て同女を窒息死するに致らしめたものと認めるのが相当である。故に原審が本件強姦行為と死亡の結果につき因果関係の存在を認めなかつたのは事実を誤認した違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであると認めるので、この点において論旨は理由がある。
以上のように検察官の控訴趣意第一点は理由があるから刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百条但書により当裁判所において更に判決をすべく被告人等の控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却することとする。
(罪となるべき事実)
被告人両名は石川明他三名と共に昭和三十二年九月五日午前零時頃飲酒の上密会中の男女をからかおうとして群馬県甘楽郡下仁田町内の寺院学校等を探しまわつた末、同町大字吉崎所在の下仁田忠霊塔前広場に赴いところ、同所で密会中の永井可利と神戸やゑ子(昭和十六年二月生)が被告人等の気配をおそれその場から右忠霊塔裏の桑畑内に逃げこんで身を潜めたので更にこれを追求し、その附近を懐中電灯で照らしたりまたはその身辺に砂利を投げ込んだりして執拗に同人等を追い廻したので、永井、神戸の両名は身に危険を感じ右桑畑内からこれに続くこんにやく畑を横切り、同町大字吉崎字中島四十五番地の甘藷畑内へ逃げたが右甘藷畑は西北に高さ二十五糎位の並行した畝があり、畝の頂上に植付けられた甘藷が一面に繁茂していたため、神戸やゑ子は右甘藷の茎に足をとられ、俯伏に転倒して失神し、永井は被告人等をおそれ同女を置去りにしてその場から逃げて了つた。被告人等はなおも右両名の行方を探しまわつているうち、前示のように甘藷畑内で俯伏に転倒して失神している神戸やゑ子を発見するや、同女の抗拒不能に乗じこれを姦淫しようと共謀し、その場で失神して抵抗することができない同女を抱えて仰向に引き直し、ズロースをはぎ取り甘藷畑の畝の頂上に背中を乗せ頭部を低く頭頂部を高く弓なりの状態で仰向けになつている同女の上に交々乗りかかつてこれを姦淫し、その間同女の胸部、頸部、鼻口部等は強い圧迫を加え因て同女をして窒息死に到らしめたものである
(坂井 山本長 荒川)